お江戸はねむれない


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お江戸はねむれない

他の名前:
Sleepless Oedo

ジャンル:
[ ドラマ ] [ ファンタジー ] [ 歴史的 ] [ 少女 ]

あらすじ:
プロローグ 時は享保の江戸時代。吉原遊郭では、華やかな花魁道中が行われていた。道中の主役は、吉原遊郭では大見世の遊女屋・『三浦屋』の太夫・薄雲。年齢は数えの14歳。あまりの美少女ぶりに、男達はうっとりと見つめている。するとそこへ、頭巾をかぶった侍が薄雲に斬りかかる。とっさに飛び上がる薄雲。自分の簪を投げつけ、刀を折り愛猫・虎徹が頭巾を引っかく。頭巾が外され、顔が露わになる。侍の名は、旗本・雨宮志津馬。薄雲にフラれた腹いせに、斬りつけたのだ。開き直り、薄雲を罵倒する雨宮。すると薄雲は、先程自分が折った刀を拾い上げると、「身分や建前にこだわって、見えなくなるものがどれだけある事か…それにくらべて吉原(ここ)はホンネの涙あり笑いあり、なんでもありの極楽よ!髪が好きならくれてやらァ、このへっぽこ侍!」とタンカを切る薄雲。「慮外ながら『三浦屋』太夫薄雲でござんす。人の心が刀で切れるか、力で奪れるか!ヘボ侍の手に掛かって殺されようと、渡せないのがまことの心じゃァな・い・か・いなァ!」と一喝。事の一部始終を見ていた、客から「いよっ!花魁、日本一!」と掛け声がかかる。雨宮は「〜~~くっそゥ、覚えておれ!!」と逃げ帰る。 この騒ぎで薄雲に一目ぼれした、大店の若旦那が「いくらかかってもいいわ、薄雲をアタシの物にするのよ!」と連れの者に言うと、その場にいた別の男が「無理だよ、いくら小判を積んでも薄雲と枕をかわすこたァできねえよ。」と告げると、若旦那が反論。男は、「花魁は処女(きむすめ)なんだよ。酒や話の相手はするが、どんな男にも指一本ふれさせねえ。」薄雲は、処女だったのだ。 翌日。『三浦屋』では昨日の騒動の話で、持ち切りだった。朋輩の遊女たちが、雨宮の吝嗇ぶりを笑いの種にして、薄雲を褒めそやす。するとそこへ、『三浦屋』のナンバー1遊女・高尾太夫が現われ、「バカは薄雲よ。あんなボケ侍のために、女の命の黒髪をバッサリやっちまって。」と言うと、外から「ピー、ピー。」と笛の音が。なんと薄雲は、新しい自分の姿を浮世絵師・東洲斎写楽に描いてもらい、その浮世絵を『三浦屋』の外壁に飾ったのだ。高尾は驚き怒り、「なんの真似よ、薄雲これは!芝居小屋じゃないのよ、ここは!」血相を変えて2階から降りてきた高尾。「あんたは先輩に対する、礼儀というのを知らないの!?」と怒鳴りつけると意にも介さず、「礼儀?ああ、「ネンコージョレツ」ってやつね。そういや今日はお誕生日おめでとうございます。高尾姐さん。23歳ってことで今年こそ、いい男ぶりのニーサンが見つかりますよーに。」と頬に接吻すると、その場から立ち去る。 そこへ、薄雲の客の一人である蘭方医・青砥藤一郎がやって来た。「青砥さまが甘やかすせいですよ、あのお転婆がしたいほうだいこの吉原をかき回しているのは!」と抗議する、高尾。「薄雲がいないならしかたない、出なおします。」帰ろうとする青砥を呼び止め、「あの…あちきは今日誕生日ですの。一緒に祝いの杯をあげておくんなまし…」と告げる高尾。高尾は、青砥に片思いしているのだ。青砥は高尾の顔を見ると、「鉛のはいったお白粉は、使わないように言ったでしょう。いいですか、もう若くはないんですから。飲み薬をさしあげます。寝る前に忘れずに飲むこと!返事!」「…ハイ。」空振りに終わった、高尾だった。 第1部(菊組結成〜朱雀との戦い始まる〜) ある日薄雲は、江戸で今人気急上昇中の旅芸者・弁天山菊之助と「女競べ」をする事になった。気の進まない薄雲だったが、朋輩の遊女たちから焚き付けられ渋々「女競べ」をする事に。戦いの舞台は、『三浦屋』。審査員の一人に、『三浦屋』の遊女・桔梗の客だった『極楽堂』主人がいた。『極楽堂』は年季が明けたら夫婦になるとだまして、桔梗から300両を巻き上げていたのだ。怒り狂う桔梗をなだめ、薄雲が『極楽堂』のもとへ行くと、『極楽堂』の帽子を取り「では主さんの、この格好の良い頭の皮を…」と禿頭に筆を走らせ、「売約済」と。薄雲の強烈な仕返しだ。するとそこへ、「女は男に貢がせるもの。男に金をまきあげられるなんざ、女郎のほうがバカなんじゃありませんかねぇ…おくれまして、わたくし。菊之助と申します。」弁天山菊之助が現われた。菊之助は、欧羅巴の宮廷衣装・ローブ・デコルテを身にまとい、第一審査・「満艦装飾華競べ」に臨んだ。あまりの色っぽさに、(キ……キレイすぎる!!)と言葉を失う薄雲。「勝負あったわね、薄雲。」と高尾。遊女たちが「まだ同点よ、高尾姐さん。」この後の和歌や琴などの審査が残っているのだ。「バカねぇあんたたちも、菊之助の色気を見たでしょ。その目で。処女(おぼこ)でカマトトの薄雲には逆立ちしたって出てこないよねぇ、これだけは!だいたい客をとって金を払わせながら肌を許さないなんて、遊女の風上にもおけないね!」薄雲は、「一日の仕事に疲れた、男のひとにあたしたち女が売ってあげられるものは、からだだけじゃあないと思うわ!」と反論。高尾と大ゲンカに。次の競技に向けて仕度するため、一旦座敷を出る薄雲。廊下に出ると、妙な歌が流れてきた。菊之助だ。「お嬢ちゃん。そんな甘い考えじゃァ、世の中ひっくり返せないよ。」「あな…た、菊之助…」「後援のお大尽たちが出した、豪華な賞品目当てに来てみたら、とんだ掘り出し物が手に入った。」菊之助の手には、薄雲がいつも肌身離さず身につけていた、母の形見である十字架が刻印された印籠が。驚き、取り返そうとする薄雲。「十字架(クルス)…そうかい、あんたのおっ母さんは切支丹…」「返してよ!」手首をつかまれ、見つめられる薄雲。菊之助を突き飛ばすと、かつらが外れ、見事な金髪が露わになった。(…え!?黄金の…髪。)すると菊之助は、いきなり片肌を脱ぎ「知らざァ言って、聞かせやしょう!天下御免の大盗賊・弁天小僧菊之助たあ、オレの事よ!」と名乗り出た。呆然とする、薄雲。(男…?)信じられない表情の薄雲の腕をつかみ、「その手で触って確かめてみな。」と龍の刺青が彫られた、体に触らせる菊之助。菊之助をはねつけると、彼は「あんたのおっ母さんは、ころんだんだな。ころんだ(改宗した)切支丹の女は、遊郭に売られるのが決まりだ。」それを告げた上で、手を組むことを持ちかける、菊之助。彼をにらみつけると、鏡台の引き出しに入っていた簪を投げつける、薄雲。「おつぎは、その肌の龍の目だよッ!」盗っ人なんかとは組まないとキッパリ断る薄雲。そこへ遊女が「薄雲ー、したくでき……」と襖を開けると、菊之助の姿に驚き悲鳴を上げて、部屋から飛び出した。菊之助は、薄雲が手に握り締めていた簪を自分の腕に刺すと、「これだけは言っておく。あんたのことはもう2年も前から、目をつけていたんだ。オレは、薄雲。絶対にあんたをあきらめない!」と告げると、部屋から立ち去った。 再び、「女競べ」の会場。屏風の前に置かれていた、優勝商品がごっそり無くなっていた。審査員の一人がそれを見て、驚愕。「なっ、ないっっ!!」大騒ぎになる、会場。そこへ、先程の遊女が「薄雲の控えの間に、異形の者が!!」と飛び込んできた。薄雲の安否を確かめに行こうとする面々。座敷へ戻った薄雲に、一同安堵。別の部屋から、今度は高尾の悲鳴が。「…猩々か、阿修羅に違いないよあれは!」と大騒ぎになる。屏風に落ちていた、菊の花を拾う青砥。 薄雲は、必ず印籠を取り返す事を、天国にいる母に誓った。 「女競べ」から、数日後。薄雲を怨む雨宮は、町のやくざ者を金で雇い、薄雲に嫌がらせをするよう指示。『三浦屋』に青砥が登楼し、薄雲と酒を飲みながら、菊之助の件について話をしていた。すると、向こうの座敷で怒号が上がり、男たちが『三浦屋』楼主を呼べと騒ぎ始めた。必死に頭を下げる、男衆。「たたっ斬ってやらァ!」と相手をしていた遊女に、刀を向けた。騒ぎを聞きつけ、座敷にやって来た薄雲と青砥。「どうしたの?なんの騒ぎよ!」男たちは、「どうもこうもねえや、このアマオレの盃に虫の死骸を入れやがった!」「それだけじゃねえ!この椀の中身を見な!」汁の中には、人の髪が。雨宮の差し金だと覚った薄雲は、嫌がらせをやめるよう男たちに告げる。「じゃァ、その髪を全部剃り落としていただこうか!」と迫られ、「やりな。」と頭を下げ、男たちを鋭い眼差しで睨みつける薄雲。「…ちッ、ちきしょーっ!」薄雲の眼差しに威圧され、刀を向ける事が出来ない男。「剃りたきゃ剃れってんだ、このごろつきめ!」そこへ青砥が、割って入った。「…手前は、蘭方医青砥藤一郎と申す者。このたびのこと、まだ14にもならぬ薄雲の世間知らずの振舞いがいたしたこと。手前がかわって、謝り申す。どうか刀をおおさめいただきたい。」男はなおも、「…は、ははは。こりゃァおどろいた!いまや江戸いちばんの名医の誉れ高い青砥の先生が、遊女のために土下座するとはよ!」薄雲が止めに入り、「先生!!やめて!先生には、関わりないことよ!」青砥は制止を聞かず、「おおさめいただけるか!」青砥の手の力で、座敷の板の間が割れた。それを見たやくざ者は血の気が引き、そそくさと『三浦屋』をあとにした。男たちが帰った後、薄雲が青砥に抱きつき、「先生!バカだよ先生!あいつら先生の評判落とすこと、言いふらすに決まってるじゃないか!ばかーっ!」薄雲に抱きつかれて赤くなり、卒倒する青砥。「せっ、先生!?」気がついた青砥。いつの間にか、薄雲の部屋にいたのだ。「…弱くて…すまぬ…」頭を下げる、青砥。「先生…さっきは…ありがとう…これからはあたしが、先生のこと守ってあげる。」2人の様子を部屋の外から覗いていた、朋輩遊女たちは「ついに薄雲にも、おとずれる時がきたか!」「恋や恋〜。」と盛り上がる。「…冗談じゃないわよ……!」青砥に片思いの高尾は、面白くない。(…きこえてしまう…この胸のはやさ…)淡い初恋の訪れに、胸をときめかせる薄雲であった。 その頃、江戸では大店を狙った押し込み強盗が相次いでいた。瓦版には、「黄金の阿修羅」の見出しが。「阿修羅」とは、金髪碧眼の弁天小僧菊之助だった。神田お玉が池にある、青砥家。青砥が例の瓦版を読んでいると、女中・お福が入ってきた。「先生。『尾張屋』の番頭さんが、お薬をもらいにおいでですが。」「はい。」お福が部屋から出た時に、『尾張屋』番頭が入った。「先生。」「これは…番頭さん。」青砥が引き出しから袋を差し出し、番頭に渡す。薬袋の中身は、薬ではなく「姫様御無事ニテ候」と書かれた紙が。「体の弱いお嬢さまが病の虫にとらわれぬよう、今後ともよろしくおたのみ申します…」深々と頭を下げる、『尾張屋』番頭。「こころえました。」玄関に、加賀藩・前田家上屋敷からの使いが青砥を迎えにやって来た。座り、青砥を待つ前田家家老。『尾張屋』の用事を終え、駕籠に乗り前田家上屋敷へと向かう一行。そこへ貧しい身なりの少年が駕籠へ駆け寄り、「お、お待ちください、お待ちください!お駕籠の中は蘭方医の青砥さまでございますね!」少年は、父親が病に倒れ、医者を呼ぼうにも薬代が出せないほど貧しい事を青砥に切々と訴え、加賀藩家老に泣きながら懇願。青砥が駕籠から降りようとしたその時。家老は少年を斬った。斬られた少年をそのままにして、上屋敷へ向かおうとする一行。「…待たれい。ご家老。殿にお伝え下さい。水虫は不浄な人から人へと感染するもの。いちど、殿以下ご家臣すべての五臓六腑すべての汚れを、洗いきよめられてはどうかの。」青砥は少年を抱きかかえると、振り向きもせずに立ち去った。 事の一部始終を前田家藩主に話した、家老。憤る藩主。「いっそお手討ちになさいますか?」「いや…口惜しいが、あの男でなければ余の持病は治せぬのだ…」水虫に悩む藩主は、なんとか青砥に一泡ふかせてやりたいと考えあぐねる。そこで家老は、藩主に薄雲の事を話す。薄雲を横取りして身請けしようというのだ。乗り気になった、藩主。 吉原に辻占売りがやってきた。短い占いの言葉を書いた紙片を巻せんべいなどに入れ、売り歩くのだ。たいていが恋愛に関する占いだ。売り子を呼び止め、占いせんべいを買う薄雲。遊女たちも購入。朋輩たちが良い結果に喜ぶ最中、薄雲はその場を離れた。結果は、「御やうじん」。『三浦屋』へ帰り、自分の部屋に戻る薄雲。虎徹が窓の格子に来ている小鳥を狙って、虎視眈々と構えていた。「あらら、虎徹また小鳥さん狙っているの?やめときなさいって、つかまえられっこないんだから。」じりじりと窓に向かい、小鳥に飛びかかった虎徹。小鳥は、飛んでいった。「むむ。残念なり。」「…う、うそ…気のせいよ…ね。」と虎徹が人間の言葉を話したかもしれないと、驚く薄雲。だが虎徹は振り向き、「にゃん。」「あはは!バカだねー、あたしも!猫が人の言葉を話せるわけがないじゃない!」そこへ、『三浦屋』楼主がやって来た。「薄雲ちゃん。困ったことが起きたんだよ。すまないが、来ておくれ。」楼主の部屋へ行くと、前田家藩主が、「薄雲を身請けしたい」と切り出したのだ。しかも、薄雲の亡き母が残した借金もまとめて肩代わりするというのだ。だが『三浦屋』楼主は、金額の問題ではないと断った。「薄雲がいるだけで…「悪所」と呼ばれる、この廓じゅうが明るくなります。人知れずつとめに泣いている遊女たちが、薄雲の笑顔にどれだけ勇気づけられているか知れません…」話を聞いた藩主は、「だから…売れぬと申すのか。」「ご勘弁くださいまし。」逆上した藩主は、「いらぬごたくを並べるな!遊女とは金でどうにでもなるもの!」「一刻(いっとき)のうちに、薄雲と同じ目方(体重)の金塊を用意する!」と秤量のしたくをするように告げ、立ち上がる藩主。あまりの横暴さに、怒りが収まらない薄雲。そこで薄雲がとった作戦は、鉛入りのりぼんを頭に飾り、仕掛に鉛の板を入れ、口いっぱいに餅を加えて重さを加えるという物だった。薄雲の体重を見た、藩主。「これくらいの金は、いつでも用意できるわ!加賀藩を甘く見るでないぞ!」高らかに笑い、部屋を出る藩主だった。廓の男衆や朋輩遊女たちが、「どうしよう花魁…」とオロオロする。逆らえば、『三浦屋』に危害を加えられる事は想像が付く。薄雲は、「あたしがさしで勝負する!」と藩主が待つ座敷へと向かった。「待ちかねたぞ。さあ、酌をいたせ!そちも呑むか?え?」すでに出来上がっていて、酔いが回った顔で薄雲にすり寄る藩主。げんなりした薄雲は「口がくさい!わちきは、吐き気が起こりますよ。」怒りをこらえながら、酒の相手をする薄雲。襖が開き、一人の遊女が入ってきた。よく見るとそれは、女装した菊之助だ。「京の嶋原からこのたびまいりました、宇佐喜と申します。薄雲花魁が少しょうお熱がありますので、熱さましのお薬を飲みに行かれるあいだ、わちきがかわりにお相手を…」助け舟を出した、菊之助。渋々、座敷を出る薄雲。酌をしてもらおうと、盃を向ける藩主。立ち上がった菊之助は、「お注ぎしましょう。ま、ひとつお飲みになって。」(菊之助!あんたに借りをつくるわけには、いかない!)不安を抱える、薄雲。その頃座敷では、盃に小便をかける音が。「あー、すっきりした!よいしょっとお!一万五千両の金塊は、オレがかわっていただきますぜ。」「あ……阿…修…羅だーー!!」悲鳴を上げる藩主。座敷へ駆け込む、薄雲。「殿様は気を失っちまいましたぜ。」先の押し込み強盗の件を、問い詰める薄雲。「オレをつかまえることが、できればね。絶対に不可能だけどな。」目くらましの火薬を投げつけ、姿を消した菊之助。「あたし……あんたがほんとに、心底極悪人とは思えないんだ…おねがいよ、人をあやめるのだけは、やめておくれよ!」姿の見えない菊之助に向かって、叫ぶ薄雲。 その頃菊之助は、大凧にくくり付けた金塊を吉原の外へ運び出すため大凧を操っていた。すると、どこからか小刀が飛んできて、凧糸が切れ大凧に括られた金塊は落下。「お若いの。お待ちなさい。」青砥だった。屋根の上で対峙する、菊之助と青砥。もう少しで手に入るはずだった、金塊を落とされ青砥を責める菊乃助。青砥が「銀狐」の名を出すと、顔色を変えた菊之助。「あんた…誰だ!」さかのぼる事8年前。長崎。当時、かけだしの医学生だった青砥はやり切れない思いを抱えながら、馬を走らせていた。すると空からいきなり、何かが落ちてきて馬上の青砥は驚く。鞍の上に落ちてきたのは、当時10歳くらいの菊之助。背中にかなり深い刀傷を負っていた。自宅へ連れ帰り、治療する青砥。ようやく気がついた、菊之助。「ちっきしょーめ、あの因業じじい!!罠なんか仕掛けやがって、くそったれーっ!」傷にひびき、痛さに悶絶する菊之助。「ばか!大声を出すと、傷にひびくぞ!…銀狐。」顔色を変えた、菊之助。「やはりな…長崎じゅうを荒らしまわっている、盗賊・銀狐。」菊之助は、「…あんた、医者?傷の手当てなんかいらねーよ。さっさと番所へ突き出しゃいいだろ!」だが、青砥は「逃げろ。銀狐。無事に逃げて、生きてくれ。」青砥は銀狐(菊之助)が狙う商家は、因業と評判の悪徳商人ばかりである事を知っていた。その上で青砥は「わたしはおまえに、生きて…ほしいんだ。」 再び、現在。「そうか…あの時の…」ようやく気がついた、菊之助。青砥から「薄雲に手を出すな」と告げられ、さらに「お前も例の一味の人間なら、今度は容赦できん!」何の事かわからず、「一味?なんのこったい、そりゃ?」と悪戯っぽい笑みを浮かべいる、菊之助。青砥に詰め寄られる、菊之助。衣服を掴まれ、破れた衣から見事な刺青が。驚く青砥。「お前……刺青を?」「そうだ…まだあんたがいた…この刺青の下になにがあったか知ってる人間にゃ…」そう告げると菊之助は、いきなり青砥の唇を奪った。驚き「なっ、なにをする!!」とはね付ける、青砥。菊之助が口笛を吹き、空から黒豹が現われた。颯爽と黒豹に跨る、菊之助。大声で、瓦版になった押し込み強盗の事件で、自分が殺したのは店の主人ひとりだけであり、奉公人には手をかけていない事を明かす。「あばよ…8年前の礼はしたぜ!」と立ち去る菊之助。「なにが礼だ!」と怒り唇をぬぐう青砥。菊之助が落としていった、十字架の印籠。これを見て、「菊之助のものか?」といぶかしむ青砥。再び、8年前を思い出す青砥。真夜中に早駆けの馬を走らせていたのは、長崎から逃げ出すためだった。夢を抱いて、蘭方医の修業に耐えてきた青砥だったが、現実は彼の想像を絶するものだった。「拷問の果て、ころんだ(改宗した)キリシタンの女のその傷を治療して、廓に送り込む役なんて!!」同期の医学生に窘められる、青砥。拷問され、青砥の下へ送られてきた女はもはや虫の息だった。女が身につけていた守り袋の中には、金色に輝く髪の毛がひとふさ入っていた。亡くなった女の面差しは、彼が助けた少年に似ていた。「生き抜いてくれ。」青砥は、そう願わずにはいられなかった。 数日後。江戸中では薄雲が「加賀藩藩主を袖にした」という、記事が瓦版の紙面を飾っていた。吉原・『三浦屋』。楼主の居間で、高尾は楼主夫妻に「馬っ鹿じゃないのぉ!?一万五千両!一万と五千両よ!!」と詰め寄っていた。薄雲は朋輩の遊女から、高尾はああいっているが「その間 別の座敷で殿さまお付きの家老たちを接待して 時間稼ぎしてくれてたのよ…」と教えられた。高尾の啖呵に、拍手する薄雲。だが高尾は「あんたには 青砥先生だけはゆずらないからね!」と宣戦布告。居間を後にした。廓内の厨房を通りかかると、青砥家のご紋がついた風呂敷包みが。男衆に訊ねると、「薄雲花魁への付け届け(プレゼント)でごぜぇやす」と。包みを目にした、高尾。嫉妬に満ちた目で、包みを横取りした。 それから、数時間後。青砥が『三浦屋』へ登楼。男衆から「高尾太夫に 薄雲さんへ渡してもらうようお願いしておきました」と告げられ、そのようなものはと言いかけ、顔色を変えた青砥。出迎えに来た薄雲に、「高尾の部屋は!?」と聞き慌てて部屋へ向かう。部屋にたどり着くと、そこには血を吐いた高尾が。化粧箱から出された、紅の匂いを嗅ぐ青砥。紅に毒が入っていた事を、薄雲に告げた。驚く薄雲。青砥は高尾を抱きかかえ、自らの口伝いで口から血を吐き出させた。「からだをあたためなくてはー」と言う、青砥。薄雲は湯を沸かすために、厨房へ向かった。釜の湯を沸かしながら、二人の様子を思い出し(心が焼けてつぶれそう これが恋ということ?)と、高尾への嫉妬に涙する。それと同時に、幼い頃に亡くなった、母親の最期のことばを思い出していた。涙を拭いながら、(あたしは 恋になんか 恋になんか堕ちない)と誓いを新たにした。 それから、数日後。江戸市中。しゃぼん玉売りに扮していた、菊之助。「菊次郎」の名で住む長屋へ帰ると、長屋の住民の一人・熊が危篤状態になっていた。菊次郎(菊之助)に礼を言うと、「今生の別れに…一つだけ心残りがあるなあ…」と虫の息で告げる、熊。彼は「『三浦屋』の薄雲花魁に…会ってみたかったなァ…」と菊次郎(菊之助)に告げた。同じ頃、吉原・『三浦屋』。薄雲は虎徹を抱きながら、自分の部屋の窓から青砥に看病されている高尾の様子を見ていた。(しばらく薄雲の座敷には行けません 高尾さんの看病をしますから)と告げられた事を思い出す、薄雲。寂しさを抱えながら、昼食をとるため遊郭内にある茶めし屋へ行った、薄雲。席に座ると、狐のお面をかぶった菊之助に声をかけられた。「こんどは なにを盗むつもりで きたのさ!」と聞くと、「今日は 薄雲花魁を盗みに」驚く薄雲。店の者が、茶めしを持って行くと、2人の姿はなかった。 菊之助は薄雲を連れて、長屋へ。熊の家に向かい「熊さん入るぜ とっておきの薬を持ってきたよ」と玄関を開けた。臥せっていた、熊が起き上がると目を皿にして驚いた。「花魁!?」と声をかけられ、ビックリする薄雲。熊は菊次郎(菊之助)に箪笥の中にしまってある、錦絵を出すよう告げ、錦絵を目にして「これだ これだ!」と錦絵と同じ薄雲の姿に、夢じゃない事をようやく確信した、熊。「薄雲に会いたい」という願いが叶い、感激する熊。薄雲に会うためには、ひと晩に何十両という大金がかかる事から、「おいらにゃ そんな金はとてもつくれねぇ」と打ち明けた、熊。思い残す事はないと感謝を伝える、熊。励ましの言葉を伝え、「そして吉原へ お金でなく心で…あたしを買いに来てください!」と告げた、薄雲。お見舞いを終え、市中を歩く薄雲。さっきの事を振り返り、薄雲は菊之助に「好きな女性はいないの?」と聞くと、「盗っ人稼業にゃ 邪魔なだけさ」と嘯く菊之助。菊之助は「薄雲の相手は 青砥の先生か?」と聞かれ、あわてて否定する、薄雲。菊之助は「青砥はやめな」と告げると、先日の高尾が紅に仕込まれた毒を飲んだ騒ぎの件を告げる、菊之助。「あの紅はほんとは 薄雲あんたに宛てたものだった」と薄雲が狙われている事を告げた、菊之助。青砥が自分の馴染み客になって、『三浦屋』に来ているのは「そいつらから あんたを守るためだ」と言われ、信じられない薄雲。「いいかげんなこと 言わないで!!先生があたしのお客になってくれたのは あたしのー」と言いかけ、走り出す薄雲。 すると、客の前で芸を披露していた人形遣いが笛の中に仕込んでいた、針を薄雲の首を目がけて、吹いた。すんでのところで、菊之助がお面を投げつけ、難を逃れた。菊之助は人形遣いに短刀を投げつけると、人形遣いは倒れた。が、倒れたのは人間ではなく、人形。驚く客達。操られていたはずの人形は宙を舞い、飛び上がって、鳥居の前へ。すると、青砥が人形の前へ立ちはだかり、刃を向けた。人形に刀を突きつけ、「薄雲の いや姫君のことを知っている者は誰なんだ!」と問い詰める、青砥。人形は「後悔するぞ…青砥 あの姫のために徳川が滅びるやもしれぬ 上様と切支丹の女の子など…生かしておくわけにはいかんのだ!」と言い放つと、自爆した。人形との一部始終を目撃し、涙目で青砥に「先生は誰なの…?話して…なにが…起こってるの あたしは…あたしは誰なの!?」なぜ、自分が狙われるのか分からず、半狂乱になる薄雲。青砥はその場に平伏し、「これまで 真実をおかくししている間の 非礼をお許しください あなたこそ江戸城におわします上様の 姫君さまに…相違ございません」と真実を打ち明けた、青砥。 呆然とする、薄雲。「あたしの…手をとってねえ「薄雲」って呼んで!!」と泣きながら訴える、薄雲。「どうか ひらにお許しを」と平伏したまま告げる、青砥。その場に倒れこみ、「あんたの言うとおり…だった」とショックを受ける、薄雲。「…たいした姫さまだぜ」と冷静に受け止め、青砥にすべてを話してくれるよう告げた、菊之助。『尾張屋』の一室。未だショックが覚めやらない、薄雲。2人の様子を、隠し部屋から伺う『尾張屋』主人と青砥。青砥は尾張屋に「菊之助は傀儡子の手から姫君を守りました しばらくはあの男を信用してみましょう」と告げた。 さかのぼる事十四年前。将軍は、生涯ただ一度だけの恋をした。代々の幕府の基本方針である、切支丹弾圧に疑問を抱いた彼は、自ら弾圧の現状を調べている最中。ころび切支丹の遊女と知り合った。同情ではなく、純粋に愛し合っていた2人。だが、彼女が身ごもった事が分かった時。2人は別れなければならなかった。幕臣たちから彼女が身ごもった子供の始末を迫られた、将軍。だが彼は「それだけはならぬぞ!」と敢然と拒否。自分の子である事さえ隠せばいいのだろうと訴え、「なにが徳川八百万石じゃ!」と言った将軍。「そうして… あなたがお生まれになったなったのです 姫さま…」と打ち明けられた、薄雲。望まれて産まれてきたのかと問う、薄雲。尾張屋は将軍は会うことが叶わぬ薄雲の事をいつも気にかけており、自身たちが薄雲の身を守るよう隠密裡に命ぜられた事を明かした。 「ころび切支丹の遊女の子として生まれたあたしが…生き別れになったお父っつあんと晴れて 父娘の名乗りができる日…この世の地獄がなくなる…って…」母親の遺言を打ち明けた、薄雲。尾張屋は「ほんとうに 身分や宗教のちがいなど一切関係なく 愛し合う者同士一緒に暮らせる世の中になるのは 見果てぬ夢でしょうか…」と語った。将軍は、亡き母と一緒に過ごしている時だけは、「政務の疲れもお忘れのようでした」とも打ち明けられた。話す内に青砥は、急進的に将軍が改革を進める事に異を唱える老中の一派がいる事を打ち明けた。『三浦屋』に毒入りの紅を送りつけたり、傀儡子に化けて薄雲を狙ったのは「その一派に命を受けたお庭番たち 伊賀者です」と話した。出生の秘密を知った今では、吉原に返すわけにはいかないと告げ、「どうか われわれのもとへ身をおかくしください」と尾張屋から懇願された薄雲。青砥は菊之助に「なにが目的で 姫さまに近づいた!」と詰問する。答えない菊之助。何故答えないのかと厳しく問う青砥を制する、尾張屋。「この場で言いたくなければよい」と告げ、自分達に協力するよう迫る尾張屋。だが菊之助は「いやだね 青砥さんよあんた今まで薄雲の命は守れたかもしれないが 心は守るどころかあんた自身が踏みにじったんだぜ」と言い放ち、その上で、侍は「でえきれえなんだ」と吐き捨てた。 すると、『尾張屋』主人は畳を拳で押し、菊之助は畳の下へ仕掛けられていた落とし穴へ。菊之助を呼ぶ薄雲。『尾張屋』主人と青砥からしばらく身を隠すように告げられるが、薄雲は「いや!いやよ!!あたしは 姫さまなんかじゃない」「そうだ あんたは姫さまじゃねぇ」そう告げると、外に控えていた『尾張屋』の手の者が、菊之助に倒されていた。いつの間にか、脱出していた菊之助。「あんたが姿を消しちまったら 江戸じゅうの男が心配で心配で夜もねむれねえぜ!」薄雲は菊之助に「連れてって あたしを―」制止する青砥に、薄雲は「先生―お父っつぁんに伝えて!あたしは きっといつか自分の力で 正せい堂どうお父っつぁんに会いに行くって!」そう告げると、薄雲は菊之助と共に『尾張屋』から去って行った。『尾張屋』配下たちが2人を探しに出ると、後に残された青砥は「薄雲…非情な命に心をふみにじられたのは あなたのほうだけだと思うか…」とつぶやいた。川舟に乗っている薄雲は、突然。菊之助に当て身を喰らい、気を失った。「…悪いが こんどはオレが利用させてもらうぜ」 その頃。吉原の『三浦屋』では、突如薄雲が姿をくらませた事で、見世中大騒ぎとなっていた。『三浦屋』の若衆が茶めし屋を訪れている事は確認出来たものの、四郎兵衛会所(吉原遊廓大門の出入りを監視する所。)や茶屋・遊女屋、河岸見世(下級な遊女屋。切見世とも言われている。)なども探したが、「花魁の姿は見なかった」と言われたのだ。朋輩の遊女たちが、「…薄雲にかぎって 廓から逃げるはずがありません」と騒ぎ出し、ついに「…かどわかし(ではないか)…」と思い当たっていたところ。庭の池に、水音が。池には、薄雲の下駄が。鼻緒に文が付いていて、読んでみると「うす雲はあずかった 無事に帰してほしくば千両」店の者たちが驚いていると、そこへ青砥が。「その金はわたしが用意します 賊との取り引きはすべてわたしにまかせてください」と告げ、『三浦屋』楼主に奉行所への届出は無用と言った。 同時刻。薄雲は、とある民家にいた。目が覚めた薄雲。菊之助に川舟の上で当て身を食らったことを思い出し、「くそ―っ!あいつを信じたあたしがバカだ!」と怒りをあらわにする、薄雲。するとそこへ、「気がついたの ねえちゃん」と青い瞳に赤い髪の少年が握り飯を持って、現われた。「あんちゃんって…あんた 菊之助の弟なの?」と訊ねる薄雲に少年は「ちがうけど ほんとうのあんちゃんよりもいいあんちゃんだぜ」と、自分のように異国の血が混じっている子どもみんなのあんちゃんだと告げた、少年。すると、少年の腹がなり薄雲は少年に「…食べていいよ」と握り飯を与えると、一緒に逃げようと切り出す、薄雲。「あの菊之助って男はね 人殺しも盗みも平気な極悪人なんだよ!」と告げると、少年は顔色を変えて怒りだし、「ちがわあ!あんちゃんは悪人じゃねえよ 殺されたやつらは自業自得なんだ!」と反論。少年は、菊之助が殺したのは以前長崎の地で役人とグルになり、「汚ねえ手でしこたま稼いだ狸たちさ!」と明かし、少年とその仲間達の母親はその奴らによって、阿蘭陀の商人への貢物にされた事を打ち明けた。それにより産まれて来た、自分達は「狸たちに買われて こき使われた」と涙ながらに打ち明けた。その上で、「あんちゃんが金を集めてるのは 船をつくるためさ!いつかでっけえ船をこしらえて 日本じゅうの同じ身の上の仲間と一緒に おれたちお父っつあんの国行くんだ…!」と告白。少年の決意に、言葉を失う薄雲。「世界は広いんだって あの青い海のむこうに ず―っとず―っと向こうにお父っつあんの国があんだって」と話す少年。海を越えて父親に会いに行く事を打ち明けられた薄雲は、少年に「だけど…この国を おっ母さんの国を捨てるのかい?」と問うと少年は力をつけたら帰って来ることを話した。少年は薄雲に「ねえちゃん 廓の人だろ?」と告げると、少年は「きっと日本を 女のひとが身を売って泣かなくてもいい国にするからな!だからその日までねえちゃん 達者でいてくれよな!」と宣言した。 所変わって、大目付沢田采女正重義宅。沢田は、配下からの報告で薄雲がかどわかされ、「黄金の阿修羅(菊之助)」から身代金千両を要求した脅迫状が届いた事を聞いていた。「朱雀 黄金の阿修羅が主人を殺したあとの商家をおそい 残りの者を皆殺しにし 小判一枚残さずにうばっておるというのはお前たちであろう」と咎めた。その上で、「あれほど派手なふるまいは慎むようにと申したではないか」と、町方が動き出す事を危惧していた。襖の陰に控えていた、伊賀者の頭領・朱雀は「…お言葉ではございますが 御前 われわれは伊賀者でも精鋭中の精鋭 町方など屁でもございません」沢田の前にいた、配下は「だまれ!それほどに自信があるなら さっさと阿修羅の居どころを探し出せい!」と叱責。下がって行った朱雀。配下は朱雀たちの最近の振る舞いを苦々しく思っており、「このままでは飼い犬に手をかまれることにならないとも かぎりませんぞ」と危惧している事を話した。沢田は「わかっておる 伊賀者なぞしょせん道具じゃ 使い捨てのな」貧乏旗本の息子だった彼は、長崎奉行から勘定奉行を経て「やっと登りつめた大目付の座じゃ」と長崎奉行に就任するために、何千両もの大金を賄賂として当時の幕閣へ贈った事を打ち明けた。そして、長崎奉行時代。切支丹を徹底的に取り締まった事。配下も「目を背けるほどの すさまじいお仕置きでしたな」と話す。「盗っ人や伊賀者ごときに おびやかされるわしではないわ!」と嘯く、沢田。 ある雨の日。風呂敷包みを持った、『尾張屋』奉公人に声をかける男が。「だんな 濡らしちゃいけねぇ荷物があるんだ そこの辻まで傘に入れてもらえませんか」と請う。奉公人の傘を持った次の瞬間。落雷と同時に、奉公人はその場に崩れ落ちた。こときれた奉公人の腕を踏みつける、男。すると、奉公人の遺体はザラメのように粉々に散った。高笑いをする男。それと同時に、後をつけていた菊之助に「出てきな 阿修羅さんよ」と告げた。何者かと問う菊之助。「いや…見当はついてるぜ オレの仕事のあとを野犬のように荒らしてるのは てめえだな」と問う、菊之助。主人を殺したあとに、奉公人たちに国許へ帰る金を渡す等まぬけな仕事をしているお前が悪いのだと言い放つ、男。菊之助の怒りに、火がついた。「おまえもザラメになりたくなければ 薄雲さまの居所を言うんだ!」と告げた、男。「なるほど……てめえがお庭番の伊賀者か…」と匕首を出す、菊之助。立ち向かおうとした、次の瞬間。どこからともなく、男を制止する声が。もう少し、泳がせておくよう指示された男は、「命拾いしたな」と告げると、姿を消した。あとに残された傘をつかむ、菊之助。その頃、薄雲は涙をこぼし、「あたし いまのいままでどん底の気分だったんだ なにを信じていいかわからなかった」と、少年に打ち明けた。でも(この少年に比べたら)自身は毎日、大勢の客や吉原の人間達に支えられて生きてきたことを、実感。「落ち込んじゃいられない 夢を捨てちゃいけない!」と前向きになった、薄雲。 夜が更け、突如。『尾張屋』の前にしゃれこうべを持った異形の者が現われた。どこからともなく風が吹き込み、店の者たちは異常に気付き刀に手をかけると、店に入り込んだ異形の侍を斬りつける。異形の侍―鎧が倒れ、しゃれこうべの口から、数羽の蝶と花々。そして、賊が3人現われた。店の者が、「姫君を狙う 伊賀者だな!」と斬りかかるが賊はひるまない。刃を突きつけられた賊の一人は、覆面を外す。あの雨の日に、奉公人を殺しザラメにした男だった。男は仲間に、「花心(かしん)残月(ざんげつ) 少しょう遊ばせてもらおうぜ…」と告げた。所変わって、民家。薄雲はいきなり仕掛けを脱ぎ出し、少年を赤面させた。菊之助の変装用の着物を物色すると、着物に着替えてここから逃げ出すことを告げた。着替えを終えると、外から石を転がす音が。菊之助が帰って来たのだ。「お 気がついたかい 花魁」菊之助を睨みつける薄雲。「『尾張屋』から助けてやったのを忘れてるな?」と告げる、菊之助に薄雲はなんで吉原へ行かずにここへ連れてきたのかと問いただす、薄雲。すると、彼女は竃の前にあった升を投げつけ、反撃した。さらに、障子を菊之助目がけて倒すが、逆に彼に押し倒されてしまう。「利用と言ったな たしかにオレはあんたを利用するつもりだよ!」「ほらやっぱり!」と怒る薄雲に、彼はさらにこういった。「利用するさ 金で垢光りしたこの国を太平洋にどぶんと突っ込んで血が出るまで洗いこすってやるためにな! それがあんたの希望でもあったんじゃねぇのかよ!」それでも文句があるなら吉原へでもどこへでも帰りやがれと薄雲に詰め寄る、菊之助。薄雲は、『三浦屋』で初めて彼に出会った時にこの瞳に釘付けになった事を思い出していた。「花魁が盗賊ってのも…いいか」と彼と手を組む事を決意した、薄雲。2人の様子を見ていた、少年。夜明けだと知らせる。空の様子を見て、いやな予感がした薄雲。『尾張屋』に危機が迫っていることを感じ、菊之助と共に『尾張屋』へと向かった薄雲。潜り戸が開いたままになっている事に気付く、2人。店内へ入ると、奉公人たちの無残な死骸が。『尾張屋』番頭の遺体を見つけ、あの時の事を思い出す薄雲。会うことも叶わぬ父と亡き母の願いを理解してくれた、彼の死に涙する薄雲。奉公人の一人が、死ぬ間際に手がかりとなる印を残していた。「なんだろう?「ノ」の字か…?」といぶかしむ菊之助。すると、薄雲は手をつかまれた。一人、生存者がいたのだ。「月也」と名乗ったその青年は、「ひと月まえから『尾張屋』さんで…働いておりました…」と告げた。薄雲と菊之助は、その青年をかくれ家で匿うことに。 それからしばらくして、江戸の町を飛び回る一つの影が。菊之助だ。ある蔵へと降り立った、菊之助。そこには青砥が待ち構えていた。「今夜札差『上総屋』の蔵に御下げ金2千両が入ったと聞いて お前がじっとしていられるはずがないだろう」すると菊之助は、アカンベーしながら「へへっ おそれいりやしたね こっちもそろそろ出て来るころかと思ってたんだ だがつかまらねえよ あんたにゃ―」自分は町方じゃないことから捕らえるつもりもない事を告げた上で、「薄雲を 返してもらおう」と迫り、菊之助が断った上で「まだ懲りずに 権力闘争の泥沼へあの娘をつれもどすつもりかよ!」と責めると、「違う! ひとりの……ただの男として惚れた女を……なによりも大切な女をとりかえしたいだけだ!」と薄雲への想いをぶちまけた、青砥。屋根から飛び降りると、草叢に忍ばせておいた千両箱が。「千両ある 薄雲の身代金千両 三浦屋に代わって私が払う」驚く菊之助。「…先生よ この金……上総屋から……?」「それともう千両 これを元手にわたしも宮仕えからおさらばさ」さらに青砥は、「薄雲が自分の意思でおまえのそばにいることを選んだなら それもいい」と。ただそれなら、自身も一緒についていく事を告げた上で、「惚れた女となら どんな穴にも落ちてやろう!」と宣言した。菊之助は、「わかったよ てえした男だ 青砥の先生 あんたも今夜から 正真正銘の大泥棒だ!」すると青砥は、目の前に般若湯を差し出した。先程の小判の上に座りながら、語り合い「……ともに 刑場の露と消えるまで 滴るようなあの月が立会人だ」そう告げると盃を割り破片でそれぞれの指に切れ目を入れた。固めの杯だ。「よろしくたのむぜ……!」 同じ頃、薄雲は隠れ家で月也を看病していた。「うん 熱はひいたわね傷口もだいたいふさがったし」月也からあの男の子(次郎吉)はと問われる薄雲。薬草を集めに行っている事を告げた。月也は突然、薄雲に迫り「…な 毎日こんな近くでオレの看病してて 何も感じない?」「感じるって……なにを?」「てやんでえ とぼけなくたっていいんだぜ」と告げると彼は『尾張屋』へ奉公に上がる前は芳町(※江戸時代に存在していた、男娼専門の色里)にある陰間茶屋に出ていた事を打ち明け、「ちょっとした顔だったんだぜ」と話した。薄雲は「……悪いけど 美形なら毎日毎日鏡と菊之助で見慣れちゃっているんでねぇ! 手をおはなしよこのトンチキ!」そう言うと、薄雲は彼に「おう 相手を見てからものを言いな! わけあってこんな山里にかくれちゃいるが 容姿(すがた)も意気も当代一と花の吉原五丁目にその名もきこえた名花魁! 薄雲さまたァ あたしのことよ!」と、啖呵をきった。久々に啖呵を切った後、突然笑い出す薄雲。(青砥先生に むしょうに会いたくなっちゃった)と振り返っていた。菊之助が漕ぐ川舟に乗り、『尾張屋』襲撃事件の一部始終を語りはじめる青砥。店内にいた同志たちが襲われたのは、大目付・沢田采女正が放った伊賀者のうち、中核となる4人組の名をつかんだからだと告げる青砥。「4人の名は 虚空(こくう)花心(かしん)残月(ざんげつ)そして首領である朱雀(すざく)―」「残月」の名を聞き、顔色が変わる菊之助。あの手代が残した月の形(※ダイイングメッセージ)に気付き、薄雲が危ないと叫んだ菊之助。 その頃、薄雲は月也に「ところで月也 それだけの元気があるんだったらね あたしたちに力を貸しちゃくれない?」と協力を要請した。

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